別の養成所で知り合った友人の勧めで『シグマ・セブン声優養成所』へ

 大学受験に失敗し、かといって就職する気持ちにもなれなかった僕は「どうせなら好きなことを目指そう!」と一念発起。アルバイトで学費を貯めて、声優養成所に入りました。そこで初めて本格的に演技に触れ、「こんなにも面白い世界があるのか!?」とすっかり虜になったんです。力及ばず所属になれなかったのですが、その養成所で知り合った友人が『シグマ・セブン声優養成所』を教えてくれて、「ここではダメだったけど、別のプロダクションならば求めてる人材も違うから可能性があるかも? そこでもダメなら、すっぱり諦めよう」と再チャレンジを決めました。

 当時の『シグマ・セブン声優養成所』は、場所が新宿御苑にあった地下の貸し部屋。隣にスナックがあって、ときおりそちらの客が間違って入ってくることもありましたね(笑)。いまはプロダクション直下に立派な稽古場があり、収録スタジオも完備していて羨ましい限り。一方、指導陣や指導方針といった「芯」の部分は、その頃から綿々と受け継がれていると思います。

「表現する側」の大先輩に教えていただく経験は、得るものが多かったです

 『シグマ・セブン声優養成所』に入所して驚いたのは、飯塚昭三さんや野島昭生さんら現役でバリバリ働いている方が、声優界で得た経験すべてを後進に伝えようと、熱のこもった指導をしてくださったことです。それまではディレクターや演出家など「役者を使う側」の方に教えていただくことが多かったので、自分が目指す「表現する側」から学べるのは新鮮な経験でした。

 先生方からとくに注意されたのは「基礎」と「想像力&創造力」の大切さ。プロは滑舌や発声といった基礎がしっかりしているのは当たり前。また、歩いているときに感じる日差し、美味しいもの不味いものを食べたときの感情や表情など、日常の何気ないことすら演技の糧になる。そういった心構えを叩き込まれました。発見の連続だったレッスンは飽きたり嫌気が指すことなく、うまくいかないことがあっても「なんで自分はできないんだ」という悔しさで乗り越えられました。

 ただ、レッスン以外の時間のほうが圧倒的に多いから、そこでどう過ごすかがポイントなんですよね。サボろうと思えばいくらでもサボれちゃう状況で、いかにモチベーションを保つか……。「自分はなぜ声優になりたいのか?」 僕はその初心を常に心に留め、少しの時間でも有効に使おうと生活していました。例えば、レッスン日以外は学費稼ぎのアルバイト漬けでしたが、深夜にコンビニ店員をしていた際は、掃除中に発声練習をしたり、自分なりにキャラクターを演じて接客したりとか(笑)。

 養成所を出て20年以上たちますが、「滑舌と発声はできて当然」「常にイマジネーションを持つ」といった姿勢は心のなかに生き続けています。その一環として僕は、湿度が高くて喉の負担が少ない入浴中、いつも発声練習を行っています。これも「訓練」だととらえると辛くなるけど、入浴と発声練習をセットに考えて「習慣」にしてしまうと当然のこととしてできるんです。1日たった10分の発声練習も週換算で70分、1か月で5時間……とドンドン蓄積されていきます。5時間の発声練習を1回でやろうとするとキツイけど、1日10分ならば楽ですよね。声優志望者の皆さんも「継続は力なり」で、いまのうちから声の鍛錬に関わることを習慣付けておくと、後々大きな意味を持ってくると思います。

いつ訪れるかわからないチャンスを掴むため、準備は常に怠らない

 声優業は、基本的に食べていくのが大変です。僕もデビュー後、30歳頃までアルバイトは欠かせませんでした。でも、辞めたいとか、つまらないといった感情が浮かんだことは皆無。毎回仕事の題材や顔ぶれが変わってマンネリ感とは縁遠く、瞬発力、対応力、集中力……いろいろな地力が試されて「いつもどおり」でいかない!ひとつの仕事を終えても、「あそこはもっと違うアプローチがあったのでは?」と反省点が浮かび、100%満足したことはありません。追求しても追求しても先がある声優業。日常すべてが芝居のヒントだから、何をしていてもワクワクしっぱなしです。さらに、お客様の反応を生で感じるイベントなどもあって、声優業はますます魅力的な仕事になっていると思います。

 声優を長く続ける秘訣ですか? 僕が教えてほしいですよ(笑)。声、芝居、外見、人脈、運。かつて仲間内で「このうち3つ持てば声優を続けられて、4つならスター、完備すれば真のスターになれる」なんて話をしたことがあります。この認識が正しいかはわかりませんが、このなかで僕が一番重要だと感じるのは「運」かな。実際、僕は人との巡り合わせに恵まれて続けてこられました。ただ、運は人知がおよばないからといって、幸運を待つだけではダメだと思います。いつ巡ってくるかわからないチャンスを掴み取るには、仕事がないときも無為に過ごさず、自己鍛錬を怠らなかったり、時代の流れに敏感でいたりといった「準備」がどれだけできているか。突然難しいセリフの役をいただいても、「俺は毎日、滑舌の練習をしている」という裏付けがあれば、臆せず臨めます。そうした日頃の行いが自信になるのです。

 声優もスポーツと同じで、練習でできないことが本番で突然できるなんて都合のいい話は早々ありません。本番のパフォーマンスは、緊張などの影響で練習時よりクオリティが下がるもの。それでもプロのレベルをクリアできるくらいにならないと、折角のチャンスをふいにしてしまいます。

声優は自分で選んだ夢でしょ? ならば自分がやるしかない

 僕がいうのも恥ずかしいのですが、声優を目指すキッカケは「ちょっとやってみようかな~」程度でいいと思います。肝心なのは、動き始めてからどれだけ本気になれるのか。演技経験の有無だって最初の数回のレッスンに影響があるくらいで、逆に経験にあぐらをかいて「自分はちょっとできているぞ」なんて驕りがあれば、すぐに置いてけぼり。むしろ、ずぶの素人が予想外の輝きを放つこともありますし、レッスン生同士の差なんて所詮ドングリの背比べですね。

 養成所時代はプロダクション所属がゴールに思えてしまうのですが、そこはひとつの区切りに過ぎず、所属後に相対するのは百戦錬磨の猛者ばかり。『シグマ・セブン声優養成所』は最長2年という養成期間が決まっているから、否応なしに頑張れる環境です。その2年間すら必死になれないようでは、プロになった後できっと挫けてしまいます。自分が声優として生き続ける意思があるのか、その覚悟を試す意味でも入所する価値はあると思います。養成所で学んで芝居が面白ければそのまま続けて、あまり興味がわかなければ別の道を選べばいい。養成所で頑張ったことが実を結んだ先には、楽しい世界が広がっていることは断言します。一方、仮に別の道に進んでも、「人前に堂々と立てる」「はっきり話せる」といった養成所で得られる力は絶対に役立ちます。

 「好きなことならやれよ!」 僕が声優志望者の方々に伝えたいのは、このひと言。演技好きなんでしょ? ナレーション好きなんでしょ? じゃあ四の五のいわず、やったらいいじゃない! 誰にも強制されず自ら決めた道。だったら自分がやるしかない。住んでる場所や経済的な問題を抱えている人もいるでしょうが、それらを乗り越えてプロになった前例はたくさんあるわけで、決して不可能ではありません。苦労や挫折を経験せずにプロになろうなんて、虫がよすぎますよね。

 声優業は努力して必ず成功する世界ではありませんが、成功している人が努力していることは間違いありません。だから、まずは養成所で必死になろうぜ! 頑張らないと結果は残せないよ。