「ナレーションは簡単」というイメージを抱いて学び始めたら……

 『シグマ・セブン声優養成所』の前身は『Doa The・声優塾』ですが、 その設立前にナレーションの短期講習会が開かれました。僕はその出身なので、「0期」となっています。

 その講習会参加以前、僕は2つの養成所でレッスンを受けていたものの、所属するまでにはいたりませんでした。 それでも、声優を諦めるという考えはまったくなかったです。 プロダクションの求める声優像と自分の特性が合わないことはありますし、養成所を渡り歩くのも珍しいことでもなかったですから。 それに、養成所の同期や先輩がプロ活動をスタートさせていて、「俺も続こう!」とやる気ももらいました。 自分としては、彼らに負けていないという自負もありましたしね(笑)。

 そうやって新たにチャレンジする場を探していたとき、有名ナレーターが数多く所属する『シグマ・セブン』が初めてナレーションに関する講習会を開くと小耳にはさみ、挑みました。 失礼な話、「絶対『シグマ・セブン』じゃないとダメ」というわけではなく、偶然、講習会のタイミングが合っただけ。 また、「ナレーション業はギャラがいいって聞くし、あわよくばお金持ちに……」という不純な動機もありました。 僕は養成所時代、端役ですがたくさんアニメに出演させていただいて経験も積んでいたから、「ナレーションなんて原稿を読むだけだし、アニメや吹き替えに比べて簡単だろう」なんて、ちょっとナメていました。 でも、それが大きな勘違いだったのです!

ナレーションはアニメや吹き替えより声優のイマジネーションが試される

 アニメや吹き替えは、画面と台本を一緒に見つつ、映像に合わせてしゃべります。 同時に行うことがとにかく多い。 一方、ナレーションは原稿を読むだけ。 単純に比較すると、アニメや吹き替えのほうが大変そうですよね。 でも、アニメや吹き替えは演技の参考にできる絵があるけど、ナレーションは自身で世界観をゼロから構築しなければいけません。 実はナレーションのほうが、声優のイマジネーションがより求められるんです。 絵の制約がないぶん、演者の技量がモロに出てしまう、とても怖い分野。それが衝撃でした。 いままで、いかに絵に頼っていたか。 そして、絵に合わせることに注力していたか。 己の未熟さを思い知り、まずは台本と正面から向き合って言葉のなかから導き出せるものを探す姿勢が身に付き、アニメや吹き替えの役作りでも深堀りするようになりました。 槇大輔さんや窪田等さんらから指導を受けられたわずかな時間で、大きく変身できたと思います。 とはいえ、先生の言葉の3割も理解できていなくて、いまさら思い当たることのほうが多いです(苦笑)。 せっかくナレーション界の神様のような人に教わっていたのに、もったいない時間だったな~。

 現役レッスン生も、先生の指導のすべてを理解するのは難しいと思います。 でも、言葉のひとつひとつをしっかり心に刻んでおけば、きっとわかる日がきます。

『シグマ・セブン声優養成所』ならば「本物」になれる土台を築ける

 声優は声だけでしっかりと感情表現ができる「声の演技力」が求められます。 一方、俳優は表情や体の動きなども含めて演技をします。でも「演じる」という本質は、どちらも変わらないんじゃないかな。 新人時代は「声を絵に合わせる」ことに四苦八苦するけど、回数を重ねれば、それは呼吸するようにできていきます。肝心なのは「演じる」こと。

 アニメや外画の音声収録は、一般的にテスト→ラストテスト→本番とみんなで芝居を繰り返し、演技を煮詰めていきます。 そして、セリフのやりとりや現場の空気で化学反応が生じ、事前に準備した演技プランが激変します。 これが、作品の可能性を高め、クオリティアップに大きく貢献するのです。

 しかし今後は、1回に集まる人数を絞って分散して行うスタイルも増えていくことが考えられます。 そうなった場合、かけあいなしの芝居が欠かせなくなり、クオリティを保つために個々の役者が持つ想像力・創造力がいっそう重要視されます。 すると「口先だけの芝居」「類型の芝居」しかできないと否応なしに淘汰され、「本物」だけが生き残る。 現在もデビュー直後は「フレッシュさ」で仕事がもらえても、「類型の芝居」では程なく需要はなくなります。 その傾向がさらに鮮明になっていくのではないでしょうか。

 その点、手前ミソになりますが『シグマ・セブン声優養成所』卒所生は、 「本物」になれるだけの土台が築かれていると思います。 養成所の卒業公演を拝見すると、台詞の距離感、芝居の対象が明確で、先生方が「演じる」ことの大切さを熱意と誠意を持って伝えているのがわかります。 もちろん、プロダクション所属がゴールではなく、そこから長い修行の道が待っていますが、少なくとも一歩も二歩もリードして声優人生をスタートできるはず。 それだけに、指導はかなり厳しく相当の覚悟が求められるものの、先生を信頼してついていけば間違いはないんじゃないかな。

 だって、声優界の生き字引きともいえる飯塚昭三さんや野島昭生さんをはじめ、実績のある方ばかりに教えてもらえるんですよ。見学と称して、僕もレッスンの場にいたいくらい(笑)。

食わず嫌いせずにやってみる!好奇心旺盛に見聞を広めてください

 『シグマ・セブン声優養成所』に限らず、養成期間中は時間が許すだけレッスンに打ち込む時期だと思います。 また、レッスン日以外にどう過ごすかで、後々大きな差が出ます。 興味があることにどんどん挑戦して、好奇心旺盛に見聞を広める。 それに尽きます! そして、プロになってからも、向上心を持って変化を恐れず、将来像や自分に足りない部分に意識を向けてください。 さもないと、アッという間に後続に入れ替わられてしまいます。声優は一生勉強で、チャンスがあればなんでも乗っていく心掛けが大切です。 僕自身『サクラ大戦』の歌謡ショウで歌やダンスや殺陣に取り組んだことで、それまで何の気なしに観ていた歌のライブや時代劇の裏に隠されたスゴさの一端が理解でき、目から鱗が落ちました。 なんて偉そうなことをいってますが、僕も養成所時代についつい時間を無駄にしてしまいがちでした。 だからこそ、今の子には反面教師にしてほしいのです。

 声優は狭き門なので、レッスン生全員がプロダクションに所属できるなんてことはありません。 でも、養成所で学んだ日々を通じて世界が広がることは間違いなく、「食わず嫌い」はもったいない。 もし食べて……実際に挑戦して自分に合わなかったら、そこでやめればいいんです。 それに、一度や二度の失敗で諦める必要もなし。 僕だって『シグマ・セブン』に出会う前は失敗の連続だったわけですからね(笑)。

 最後に、声優は明日をも知れぬ仕事で安定とは程多く、夢だけでは食べていけない厳しい世界です。 だからこそやりがいは大きく、楽しい仕事です。 僕も約30年間続けてこられたのは、デビュー当時からすべての声の仕事が大好きで、楽しくて仕方がないから。 将来の不安は常につきまといますが、ひとつひとつの仕事の魅力には敵いません。 そして「好き」なことを続けるための努力は、まったく苦ではない。 声優志望の方々も「好き」という気持ちを忘れずにいれば、大きな壁を乗り越えられると思います。